大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 平成9年(行コ)11号 判決

控訴人

佐々木勝雄

右訴訟代理人弁護士

青木正芳

被控訴人

宮城県知事

浅野史郎

右訴訟代理人弁護士

官澤里美

右指定代理人

佐々木敏明

外三名

主文

原判決を取り消す。

本件を仙台地方裁判所に差し戻す。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

主文と同旨

第二  事案の概要

一  控訴人は、原審において、換地処分に先立つ換地計画に対して申し立てた異議を棄却した決定の取消しを求める訴えを提起した後、右訴えを換地処分の取消しを求める本件訴えに変更したところ、原判決は、本件訴えは出訴期間を経過した後に提起された不適法なものとして訴えを却下した。

二  当事者の主張

1  当事者双方の主張は、原判決四頁一行目の「被告」を「宮城県」と改め、同四頁一〇行目の「別紙の」の次に「計画道路より北側である」を、同四頁末行の「劣る」の次に「別紙の計画道路より南側である」を各加え、次の2のとおり付加するほかは、原判決「事実」の「第二 当事者の主張」(原判決三頁九行目から九頁七行目まで、原判決添付別紙を含む。)のとおりであるから、これを引用する。

2  当審における控訴人の主張

換地計画に対する異議申立の内容は、異議申立人への本換地予定の内容をもつものであり、かつ、関係者全員の本換地予定の総体にほかならないのであり、全体の照応状況を把握しながら、自分への換地予定への検討、吟味を求めているものにほかならない。したがって、換地計画についての異議申立は、換地計画全体の中での異議申立人への換地予定への異議ということになるものである。この異議申立の内容をなす理由(利益)は、その後、換地処分が縦覧に供された換地計画そのままの姿でなされた場合、そのまま換地処分の取消しを求める訴えの利益の内容となるものにほかならない。

したがって、本件の場合、本件換地計画に対する異議申立てが、平成七年一月二六日付で棄却され(本件決定)、控訴人に対し本件換地処分にかかる換地処分通知書が同年三月五日交付されているが、控訴人が右同日以前に、本件決定を不服として本件決定の取消しを求める訴えを提起していたならば、この訴えは、換地処分によって、訴えの利益がなくなるのではなく、同じ訴えの利益のもとに、訴えの変更が問題とされればよいことになるだけのことであって、訴えの利益を欠くこととなって、不適法となるものではない。

従前の訴えは、本件決定がなされた日から三か月以内に提起されているところ、原審裁判所から、本件換地処分がなされていることは明らかであると解されるので、換地処分を争う形にすべきではないかと促されて、訴えの変更を行ったものであって、訴えの利益を欠くことになったものではない。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所が証拠により認定する事実は、原判決一〇頁五行目の「被告」を「宮城県」と改め、同一〇頁一〇行目の「本件換地計画」の次に「は、地力に優る計画道路の北側の位置に存在していた控訴人の従前の土地の換地を地力の劣る計画道路の南側に位置する土地に指定するものであり、照応の原則に反するものであることなどを理由として、本件換地計画」を加え、一三頁六行目の「関わらず」を「拘わらず」と改めるほかは、原判決一〇頁一行目から一四頁六行目までのとおりであるから、これを引用する。

二  前記一認定の事実を前提として、本件訴えの適法性について検討する。

1  訴えの交換的変更は、変更後の新請求については新たな訴えの提起にほかならないから、右訴えにつき出訴期間の制限がある場合には、右出訴期間遵守の有無は、右訴えの変更の時を基準としてこれを決しなければならないが、変更前後の請求の間に訴訟物の同一性が認められるとき、又は両者の間に存する関係から、変更後の新請求にかかる訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し、出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情があるときは、変更後の新請求にかかる訴え提起の時期が出訴期間経過後であっても、変更前の旧請求にかかる訴え提起の時から提起されていたものと同様に取扱うのを相当とし、出訴期間の遵守の点においては欠けるところはないと解すべきである(最高裁判所昭和五九年(行ツ)第七〇号、同六一年二月二四日第二小法廷判決・民集四〇巻一号六九頁参照)。

2  本件換地処分の取消しの訴えは、行政事件訴訟法上の処分の取消しの訴えであるから、同法一四条一項の出訴期間の制限があり、控訴人は、本件換地処分の通知を受けて同処分があったことを知った平成七年三月五日から三か月以内に取消しの訴えを提起しなければならないというべきである。ところで、前記一のとおり、訴え変更後の新請求にかかる本件訴えは、右通知の到達の日から一〇か月以上経過した平成八年一月二二日に提起されたものであるから、右提起の時点で既に本来の出訴期間が経過していたことは明らかである。そして、変更前の請求が換地計画の違法を争い、本件決定の取消しを求めるものであるのに対し、変更後の請求が換地処分を違法としてその取消しを求めるものであるから、両請求は訴訟物を異にすることも明らかである。

しかし、従前の訴えにかかる請求は、本件換地計画について、照応の原則違反があること、対象土地の誤り(控訴人の従前の土地の等位を定めるに当たって、控訴人の所有でない土地を含めた誤り)があることを主張するものであり、本件訴えにかかる請求も本件換地処分について、照応の原則違反があること、対象土地の誤りがあることを同様に主張するものであることは、控訴人の主張及び前記一に照らして明らかである。また、従前の訴えにおいても、本件訴えにおいても、当事者が同一であるうえ、従前の訴えは、平成七年一月二六日付でなされた本件決定に対し、その取消しを求めて出訴期間内である同年四月二六日に提起された訴えであるところ、ただその提起前である同年二月一日付で被控訴人によって本件換地処分がなされ、その通知が同年三月五日控訴人に到達したために、本件訴えはその利益を欠く結果となったにすぎず、その他の訴訟要件には欠けるところがなかったものである。そして、土地改良法における都道府県営事業における換地計画は施行者が施行地域内の土地についての土地改良事業をおこなうための処分であり、換地計画の作成自体に認可的効力があり、この処分が有効に存在することを前提として当該土地改良事業にかかる換地処分等の一連の行政処分、手続等が行われるものであって、仮に本件換地計画が訴訟において取り消され、その効力が消滅したときには、これを前提になされる後行処分たる換地処分等の法的効力が当然に影響を受けることが明らかであり、本件訴えにおける換地処分に対する不服と同一の事由が既に従前の訴えの請求原因として主張されていたことに照らすと、被控訴人である宮城県知事に対し、本件換地処分を争う意思が実質的には、従前の訴え提起の時に既に表明されていたものと解するを妨げないというべきであって、出訴期間の関係においては、たとえ本件訴えの提起の時期が本来の出訴期間経過後であっても、なお、従前の訴え提起の時から提起されたものと同様に取り扱うのを相当とし、出訴期間遵守の点において欠けるところがないと解すべき特段の事情があるというべきである(なお本件換地処分通知の到達の日から起算しても、従前の訴えが右通知の到達の日から三か月以内に提起されていることは明らかである。)。

三  以上によると、本件訴えを却下した原判決は相当でないから、原判決を取り消し、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法三〇七条により、本件を仙台地方裁判所に差し戻すこととする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 喜多村治雄 裁判官 伊藤紘基 裁判官 大沼洋一)

別紙〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例